こんにちは!前回に続いて、KMGBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)の具体的な行動目標についてご紹介します。
KMGBFのビジョン・ミッションについては以下をご覧ください↓
KMGBFでは、全部で23の行動目標(ターゲット)が定められており、3つの柱に分かれています。今回はその中から、「生物多様性の保全を当たり前にするために」設定された10つのアクションを取り上げます。
それぞれのアクションについての詳細は以下をご覧ください↓
ターゲット14:あらゆる意思決定で意識しよう。
社会のさまざまな分野で行われる政策決定や事業計画の段階から、生物多様性の保全を考慮することが求められています。例えば、都市計画、交通網の整備、農地の利用、エネルギー開発など、多岐にわたる分野で環境への影響評価を厳格に行う必要があります。生態系への悪影響を最小化することは、私たちの健康や経済活動の持続性にも直結しています。この目標は、持続可能な社会づくりに不可欠な基盤となるものです。
ターゲット15:企業の責任ある経営と透明性の確保
企業は経済活動を行う際に生態系や自然環境に与える影響を正しく把握し、環境負荷の低減に向けた取り組みを積極的に推進しなければなりません。これには、原材料の調達、製造プロセス、製品の流通や廃棄まで含まれます。また、その取り組みや影響についての情報を開示し、消費者や投資家が適切に評価できるようにすることも重要です。こうした透明性は、企業の信頼を高めるだけでなく、市場全体の持続可能な成長を促進します。企業にとっても環境配慮はリスク管理や競争力強化につながるため、責任ある経営は不可欠です。
ターゲット16:消費にサステナブルな選択肢を。
2030年までに、食料廃棄の半減、過剰消費の大幅な削減、廃棄物の発生の削減を進め、消費の「グローバルエコロジカルフットプリント 」(地球環境への負荷)を全世界で衡平に小さくしていくことを目指します。そのために、サステナブルな消費の選択肢を増やし、人々がそれを選べるよう、支援政策・規制・教育の整備や情報提供を行っていきます。特に、資源消費の偏りが大きい国々(日本を含む)では、より責任ある消費の推進が求められています。このターゲットでは、これまで生物多様性条約で十分に扱われてこなかった「食料廃棄物」や「過剰消費」にも着目しており、気候変動や飢餓・貧困問題ともつながる重要な分野とされています。
ターゲット17:バイオテクノロジーをもっと安全に。
近年、発酵食品の製造や遺伝子治療、バイオ燃料やバイオプラスチックの生産など、バイオテクノロジーは世界中で幅広く活用されています。生物資源の保全や持続可能な利用に貢献する可能性がある一方で、意図せぬ環境影響などのリスクも伴います。この目標では、バイオテクノロジーの期待される利点と潜在的なリスクの双方に対する取り組みが強調されています。特に、バイオセーフティー措置(改変生物の使用や放出に関わるリスクを管理する制度)を強化し、安全予防措置とルールの整備が不可欠とされています。また、研究開発への公平な参加と利益の共有を進めることも重要です。とくに途上国が研究に参画し、その成果を共有できる体制づくりは、生物多様性保全へのインセンティブにもつながります。
ターゲット18:有害なインセンティブを見直そう。
2025年までに、生物多様性に有害な補助金などのインセンティブを特定し、2030年までに年間5,000億ドル相当を削減することを目指しています。同時に、保全や持続可能な利用に資する良いインセンティブを拡大していくことも求められています。多くの現行制度は、別の社会目的を達成する過程で、意図せず生物多様性に悪影響を及ぼしており、こうした構造の見直しが必要です。改革は「最も有害なものから」「公平かつ効果的に」行われるべきとされています。
ターゲット19:実行に向けて資金を確保しよう。
生物多様性国家戦略の実行のため、世界全体で2030年までに少なくとも年間2,000億ドルの資金を確保することを目指しています。
このうち、先進国等から途上国への国際資金支援は、2025年までに年200億ドル、2030年までに年300億ドルを目標としています。資金源は公的資金に限らず、民間投資や革新的な仕組み(例:グリーンボンド、生態系サービス支払い、生物多様性オフセットとクレジットなど)も含みます。資金の活用にあたっては、効果・効率・透明性、そして気候資金との相乗効果も重視され、地域コミュニティや先住民の役割を強化し、市民社会との連携を促すことも求められています。
ターゲット20:技術をシェアして、共創しよう。
KMGBFの目標達成のために必要な能力や技術を、すべての国や関係者が持てるようにすることがこのターゲットの目的です。そのために、能力開発、技術移転、科学技術協力を強化し、政策立案者・市民・行政機関などあらゆるレベルでの能力構築を進めます。南南協力(途上国同士の協力)・南北協力(先進国と途上国の協力)・三角協力(途上国間に国際機関や先進国が加わる協力)を通じて、共同研究やモニタリング技術の向上なども後押ししていきます。伝統的知識も含め、多様な技術の共有が求められています。
ターゲット21:データや情報を、もっと使いやすく。
生物多様性に関する政策や行動を進めていくには、最新かつ信頼できるデータ・情報・知識へのアクセスが欠かせません。このターゲットでは、政府、企業、教育機関、市民を含むあらゆる関係者が、意思決定や行動のために、IUCNレッドリストのような生物多様性データや情報を活用できる環境を整えることを目指しています。また、研究やモニタリングを通じたデータの収集・整備を進めるとともに、伝統的な知識や技術を活かす際には、関係する先住民族や地域社会の自由意思による事前の同意を得ることが求められています。
ターゲット22:みんなで考え、みんなで決めよう。
生物多様性に関する意思決定の場は、誰にとっても開かれたものであるべきです。このターゲットでは、女性や子ども、障がいのある人、先住民族を含むすべての人が、公平かつ実質的に意思決定に参加できることを重視しています。また、先住民族や地域コミュニティが司法や情報にアクセスできるようにすること、そして生物多様性保全の最前線で活動する環境人権擁護者を法的に保護することも、重要な要素として掲げられています。昨年開催された生物多様性条約COP16でも、殺害された環境活動家の人権を訴えるムーブメントが行われていました。世界では、このような現実があることを決して忘れてはなりません。
ターゲット23:ジェンダー平等で推進しよう。
女性が意思決定に参画し、リーダーとして活躍できる環境を整えることは、生物多様性の保全にも大きく貢献します。このターゲットでは、女性や女児が土地や自然資源への平等な権利を持ち、政策や活動に公平かつ十分な情報のもとで参加できるようにすることを求めています。また、ジェンダーの視点を取り入れた行動計画の策定や、土地所有に関する制度の見直しなどを通じて、ジェンダー平等の実現と生物多様性の目標達成を両立させていくことが期待されています。日本でも、まだ男性が多くを占める中で、考えていかなければならない課題です。
まとめ:社会の仕組みも“わたしたちの行動”から変えていく
KMGBFのターゲット14〜23では、政策や経済の仕組み、技術や資金の流れ、意思決定のあり方まで、生物多様性と共にある社会への転換が掲げられています。これらは一見、大きな話に見えるかもしれませんが、実は私たち一人ひとりの行動や選択が、その土台になります。ここでは、日々のくらしの中からできるアクションの例をご紹介します。
・「この会社、自然への影響をどう考えてる?」を気にしてみる。TNFDレポートをのぞいてみるのもおすすめ!(ターゲット15)
・食品ロスを減らすために、食べきる・使い切る工夫をしてみる(ターゲット16)
・買い物の時に「エコマーク」や「フェアトレード認証」を選ぶ(ターゲット16)
・必要以上にモノを買わず、長く使えるものや詰め替え製品を選ぶ(ターゲット16)
・バイオテクノロジーや遺伝子組換えについて、信頼できる情報を調べてみる(ターゲット17)
・生物多様性保全団体への寄付やクラウドファンディングに参加してみる(ターゲット19)
・自然観察の知識やITスキルを地域活動に活かしてみる(ターゲット20)
・いきもの調査や市民科学プロジェクトに参加して、データづくりに協力する(ターゲット21)
・地域の環境政策づくりに意見を届けたり、公開討論に参加する(ターゲット22)
・環境関連のパブリックコメントに参加して、意見を提出してみる(ターゲット22)
・子どもたちや多様な立場の人と一緒に自然を体験する機会をつくる(ターゲット22)
・環境活動をしている女性や若者を応援したり、自分自身が発信してみる(ターゲット23)
これらの行動は、私たち一人ひとりの暮らしの中にすぐ取り入れられるものばかりです。日々の選択や声が集まれば、制度や経済のあり方を動かす力になります。地域での実践が広がれば、社会の仕組み全体を自然と調和する方向へと後押しすることができます。
皆さんはどのアクションにチャレンジしますか?すでに実践していることがあれば、ぜひコメントで教えてください!💬