みなさんは、「生物多様性世界枠組み(GBF)」のロゴを見たことがありますか?
5月22日の国際生物多様性の日に合わせて、日本語版のアイコンも発表 されました。このロゴ、あのSDGsのカラフルなアイコンを手がけたスウェーデン出身のクリエイティブディレクター、ヤーコブ・トロールベックさんと彼の会社「New Division」によってデザインされたものなんです。
実は私も、このロゴづくりの議論に少し関わる機会がありました。ヤーコブさんと交わした会話を通じて、彼がこのロゴに込めた想いを、ぜひ皆さんにもご紹介したいと思います。
「調和する」ことの意味を問うデザイン
GBFのロゴは2023年、ちょうどCOP15から1年後の12月に発表されました。
改めて見てみると、真円ではなく、少し凸凹した円の中が23の部屋に分かれているような不思議なデザイン。これは、GBFが掲げる「23の世界目標」を象徴しています。
このデザイン、実は「ボロノイ図」と呼ばれる数学的な図形がベースになっています。ある空間に点を置き、その点から等距離となる境界線を引いていくと自然にできあがる模様で、蜂の巣や細胞の分布など、自然界でもよく見られる形なのです。
ヤーコブさんはこの図形を使うことで、「幾何学的な構造」と「自然の美しさ」を同時に表現したいと考えました。さらに、23の部屋の形が互いに影響し合ってできているように、各目標もまた、独立したものではなく、つながり合いながら成り立っていることを示したかったと語っていました。
SDGsではそれぞれの目標が正方形のアイコンで表されていましたが、「自然をテーマにするなら、もっと有機的な形で表現したい」とも。確かに、自然に”直線”はほぼなく、また、私たち人間のように、画一的な形におさまるわけではなく、環境に応じて変化し、共に生きる形を選んでいます。
もし24個目の目標が増えたら?
さて皆さん、「もし24個目の目標が追加されたら、このロゴはどう変わると思いますか?」
答えは──ボロノイ図の定義によると、24番目を外に押しのけるのではなく、既存のガラスの形が変わりながらも、新たに調和のとれた24の部屋が、自然と円の中におさまるよう再配置される、です。
生命とはそういうもの。自分のスペースを無理やり広げるのではなく、他とバランスをとりながら存在しつづける。一方、ニュースを見ると、人類は、自分たちの領域を広げるために周りを削り取ろうという戦争の姿があちこちで生まれていることが報じられています。
生命の平和・調和への姿勢こそが、「Staying Alive(生き続ける)」というヤコブさんが作ったクリエイティブのロゴに添えたメッセージに込められた想いなのかもしれません。
デザインに込められた願いを伝えたい
ロゴやアイコンの多くは、制作者の意図があまり語られることはありません。むしろ、見た人が自由に感じ取るべきものかもしれません。でも今回のGBFのロゴには、「自然との共生」や「多様性の調和」といった、ヤーコブさんの深いまなざしが感じられます。
あのSDGsのロゴを生み出した人物が描いた新たなビジョン──それは、色や形を通じて、私たちに「共に生きる」意味を改めて問いかけているのかもしれません。
ぜひこのロゴのこと、そしてその裏にある想いを、周りの人にも伝えてみてください。
デザインは、言葉がなくても心に届く力を持っています。そして、そこに込められた願いを知ることで、私たちの行動も、少しずつ変わっていくかもしれません。